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伊東安兵衛さんのこと Ⅱ

うつりゆく信濃の民芸 (6)松本の小木工 後半

ところが、たいへん残念なことには、この仕事をはじめてから何年ぐらいたったころか、そろそろ軌道にのりはじめたころ、柳沢さんはなくなられてしまった。主人を失って、さてどうしょうかと迷った柳沢さんの未亡人は、けなげにもその後をひきうけ、このしごとを続けることになった。一生懸命ということはえらいもので、それから現在にいたるまでには、徐々に設備も改まり、生産もふえていった。

現在、松本で作られている小木工は、たいへん種類がおおく、小箱やたなの類から、電気セード、電気スタンド、あんどん、マガジンラック、状差し、帽子掛け、掛け鏡、額縁、運び盆、徳利はかま、燭台、さら立てなどさまざまのものがある。材は ほとんどが ケヤキで、これを「ふきうるし」に似せた色で塗装しているが、ケヤキであるだけに、木目が美しく、一般に市販 されている木工類よりは、はるかに堅牢で、重みが感じられる。また誠実な仕事がされていることも特徴となっている。”ごまかし”のないところが、民芸木工の値うちだといえるだろう。それに、よい技術者をのがさずに長くかかえていることも感心される。多少高くなっても、品質を落とさぬ方針を守っていることもりっぱなことと思う。

しかし何としても小規模で、零細企業の名がそのままあてはまるような 生産で、需要がふえても、なまじ大きくしないところが、かえって品質を保持していく道なのかもしれない。長野県下にこのような木工品が作られていることは、ささやかではあっても県の産業の小さなにない手としてみとめられていいのではないだろうか。